厄介な恋



三沢が光の結社に入ってからずっと万丈目に元気がない。
何か気に障ることでもあるんだろうか?斎王は考えるが何も浮かばない。

気になるなら聞いてみれば良いか。
そんな軽いノリで万丈目の部屋のドアをノックする。

「万丈目君?ちょっと良いですか?」

声をかければ少しだけドアが開いた。
隙間から万丈目の顔が覗く…その表情はやはり以前と比べると少々活気がないように見える。

「斎王さま…どうしたんですか?」

首をかしげながらこちらを見る万丈目は以前と変わらず可愛いんだけれど。
(決して顔には出さずに)そんなことを考えながら、斎王は彼に微笑みかけた。

「いえ、話がしたいなぁと思いまして」

そう言うと万丈目は斎王を部屋に招きいれた。


万丈目の部屋にはあまり物がない。
何故かと尋ねれば「何を置けば良いのかわからない」だそうだ。

『前は…狭すぎて困ってたくらいなのに』

笑いながら言っていた言葉を思い出す。
彼にとってこの部屋はまだ自分の部屋ではない、と言う事なのだろうか。
彼の根底にあるものはやはりレッド寮で…遊城十代といた頃の自分だからだろうか。

おもしろくない。

自分が彼に特別な感情を抱いているのはわかっているつもりだ。
エドや美寿知に抱いていた身内に感じる愛情とは違う…支配していたい汚れた愛情。
彼にこんな感情を抱くなんて自分でも馬鹿げていると思う。

「(だって今の万丈目準は…私が作り上げた『私にとって都合の良い万丈目準』だからだ)」

―オリジナルとは異なる存在―

つまり、今の万丈目の感情も言葉も何もかも全てが幻のような物だと理解してはいるのに。

「(どうして手放せないんでしょうねぇ)」

不思議に思い、ぼんやりしていると突然目の前にコーヒーが出てきた。

「どうぞ。」

どうやら万丈目が淹れてくれていたらしい。
彼の行動も目に入らないで考え事をしていたなんて自分らしくも無い…斎王は自分自身に驚く。
というか彼を手に入れてから自分は随分変わった気がする。
コーヒーを眺めながら、

「…昔は自分以外が淹れたコーヒーなんて飲まなかったんですよ、私。」

ポツリ。
自分の昔を話しだす。

「え…そうだったんですか?」

案の定意外だとでも言うように万丈目が声を上げる。
そりゃぁ、自分は彼の淹れたコーヒーをいつも何も言わずに飲みますからね。

「えぇ。でも…どうしてでしょうね。君が淹れたコーヒーなら飲めるんですよ」

自分以外の誰か。
それが私はとても嫌いだった。
いつだって私や美寿知を除け者にし、迫害してきたモノだったから。
昔からあったのだ、この世界を壊してやれたらという願望は。
でも、昔の自分にそんな力は無かったし、何よりそこまで世界に絶望してはいなかったから実現する事は無かった。

あのカードを手にするまでは。

今はもうどこかにいったあの「HEROのカード」。
恐らくはアレが…エドの探している父親のカードだろう。
力を手にした私はこの世界を壊そうと考えた。
この闇に汚れた世界を白い光で浄化しようと。
その力が今ならある。
そしてその先駆けのために彼を手に入れた。

最初は遊城十代の代わりなだけだったが…今は違う。

「(今は…逆に遊城十代に嫉妬まで抱くようになっているんですよねぇ)」

ただ駒のために手に入れただけだった。
それだけだったのに。

「君が…私にとって特別だからでしょうかね」
「斎王さま…」

頬を赤らめて私を見るその表情はやはり可愛らしい。
男なのが本当に惜しいくらいで。

「(手放せないのは…彼を好きだから、なのかもしれない)」

世界に絶望した自分なのに。
普通の人間と同じく恋愛をするようなことがあるなんて思いもしなかった。

「私もなかなか厄介な恋をしているものです」
「斎王さま…恋をなさっているんですか?」

驚いた表情の後、寂しげに顔を歪ませる。

「えぇ…あなたにですよ、準」

その言葉を聞き、途端に顔を真っ赤にする姿は本当に可愛らしくて。

「ずっと私の傍にいてください」

すがるように彼を抱きしめる。
するとすぐに抱きしめ返し、私に向かってこう言ってくれた。

「…斎王さまが望むなら、俺はいつまでもあなたといます」

自分を抱きしめてくれる彼の手は想像以上に暖かい。
思わず溢れそうになる涙を必死にこらえている私がいた。
長い間、抱きしめあっていると

「斎王様にはもう、俺は必要ないんじゃないかって悩んでいたんです」

ポツリ。
彼も弱音を私に吐き出してくれていた。

「この間の三沢とのデュエル…奴が伏せカードを使っていたら…負けていたのは俺だったと思うんです。
使わなかったから勝てた…だったら俺は三沢よりも弱いのかな、なんて考えたら止まらなくて。
三沢が負けるとわかっていて俺を指名したんだとしたら…
そんな斎王さまのお気持ちがわからなくて…怖かったんです。」

ぎゅぅ。
私を抱きしめてくれる強さが増す。

「三沢と天上院君がいれば事足りるんじゃないかと思えて仕方が無くて…」
「そんなことないですよ。」

自分のせいで元気がなかったのか。
斎王はコッソリ反省した。

「そう言う訳じゃないんですよ。あなたなら私の考えを全て理解してくれているだろうと思って
指名したんです」
「三沢がわざと負けるだろうってことを?」
「えぇ。それであなたにしたんですから」

やっぱり不安げな万丈目に斎王は至極優しそうに微笑みかけた。

「あなたがいらないはずないでしょう?私はあなたを愛しているんだから」

ぶっちゃけデュエルの強さなんて関係ない。
ただ傍にいて欲しいだけで。

「(むしろ下手に勝つか負けるかわからないデュエルをされて、元に戻ってしまうと困るんですよね。
オリジナルの万丈目準は私のことをものすごく嫌っていそうですから)」

これはある意味現実逃避なんじゃないだろうか、と考え斎王は少しショックを受けた。

「デュエルが弱くても…俺を必要としてくれるんですか?」

万丈目の言葉に斎王は即答する。

「もちろん」

万丈目は少しだけ安心したような笑顔を見せてくれた。


その夜、久々に腕の中に眠る万丈目を収められる幸せを噛み締めている斎王がいた。
いつかはこの幸せもどこかに行くのだろう。
それはわかっている。

「(いつまでも…遊城十代が黙っているとも思えないですしね)」

小さな脅威であったおジャマの精霊たちは明日香に頼んで、万丈目に捨てさせた。
大きな脅威である遊城十代は…

「(本当、あのデュエルの天才はどうしたら良いんでしょうね?
私のタロット占いも、彼の事になるとイマイチ頼りにならないし)」

色々と考え事をしながらも夜は更けていく。
…そんな夜を2人は抱き合いながら眠った。


―明けない夜はない、なんて言葉があるけれど…

明けなきゃ良いと思う。

この暗闇に作られた光の中、彼と2人きりでいられたらそれでいいような気もするから。

そう、明けなくて良いんです。

彼が目覚めてしまうから。

彼が離れていってしまうから―


end


自分でも何が書きたかったのかイマイチわかりません。正直最後の方…グダグダ…(´д`;)
ただ、斎王が万丈目を大事にしてるのを書きたかったというか…斎白万萌えというか…。
難しいよー。とりあえず斎王様はもっと万丈目さんを気にしてあげてください…。
そこはかとなく十万風味…。

2006 4/30up

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